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朝日新聞柏支局長のコラム

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37年前の判断

 

「怖かっただろうな。香川に帰りたかっただろうな」。関東大震災直後の旧福田村(現野田市)で、香川県から来た行商団15人のうち9人が自警団に虐殺された福田村事件から100年になった9月6日、追悼式が同市の利根川そばであった。慰霊碑の前に立った遺族はぽつりと話し、遠くを見つめた。
 旧福田村で1923年9月6日、9人が虐殺された。事件は朝鮮人差別や行商への偏見、よそ者への排他意識など「複合差別」を背景に、群集心理も重なって起きたとされる。自警団の一部は有罪判決後に恩赦で釈放された。一方、被害者側は救済されることもなく、記録は「村史」に残されることもなかった。
 事件の概要は80年代、香川や千葉の歴史教諭らによる生存者への聞き取り調査で少しずつ明らかに。この調査の動きを知った朝日新聞が1986年秋、千葉版に「生存者初証言」と報じた。これがマスコミの初報道とされている。記事はその後、各社にも広がった。今年は事件を題材にした映画も封切られた。
 教諭らの調査を37年前に「ニュース」とした先輩記者の判断が今の流れにつながったと思う。私も人権や人の命にかかわる事柄を見落とさずにいたいと改めて思う。

朝日新聞柏支局長 斎藤茂洋


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