読者投稿オリジナル童話

4思い出保管ケース

関口 麻里子(柏市 パート・51歳)

 

 「八年かけて、やっとできた!」
「これで、サトシの夢がかなうわね」
 ハルカは、コーヒーを入れていました。
「まずは、誰に試してもらおうかなあ」
「サトシが作ったんだから、サトシがいいと思うけれど」
「そうしようかな」
 サトシは、作業机の上をかたづけると、ハルカさんの入れたコーヒーを飲みました。
「うまいなあー。常連さんが、毎日増えていくのがわかるよ」
「ありがとう、サトシ」
 八年前、サトシとハルカは、町はずれの土地に、お店を作りました。
 土日の十時から四時までの、コーヒーショップ『ハル』と町の電気屋さんです。その横に赤い屋根のお家を建てました。
 サトシとハルカは、電気メーカーの社員も続けています。
 サトシは、コーヒーを飲み終わると、完成した機械を持って、自宅へ戻りました。
「私もお店の中を確認してすぐ行くからね」
 ハルカは、四時を過ぎて、誰もいない『ハル』へ戻りました。
(あれ、物音がする)
「誰かいるの、お店は閉めたはずなのに」
 客席を見ると、見なれない若い女の人が、座っていました。
「ごめんなさい、鍵がまだ、かかってなくて、入りました。今日しか、ここに来れないんです。コーヒーもらえますか」
「そうなの、どうぞ、いいですよ」
 ハルカは、コーヒーを入れると、女の人に持っていきました。
「私、ミクと言います」
 ミクは、青いノートをだしました。
「私は、十年先の未来からきました。今、サトシさんが完成した思い出保管ケースができてから、人々は、嫌な事はすべて保管ケースにいれてしまうようになったのです。
 そうしたら、人々はどうなったか……。ハルカさんならわかるでしょう」
「過去の過ちから学ばなくなったってこと」
「はい、そうなんです……。私は、十年先の同じ会社の社員です。私は、嫌な過去を忘れなくても、心をおだやかにするお砂糖を作りました」
 ミクはカバンから、ガラスケースに入った沢山の角砂糖をとりだしました。
「このお砂糖を作る機械の作り方を、サトシさんとハルカさんにプレゼントします。だから、サトシさんの機械は、使わないでほしいのです」
「わかったわ、サトシに頼んでみるね」
「ありがとうございます、十年後、また会える日を楽しみにしてます」
 ミクは、コーヒーを飲み終えて『ハル』をでると、夕暮れの中に消えていきました。

 




童話作家緒島英二さんより

 時空を超えてのファンタジックな世界が、上手に描かれています。豊かな発想力に、とても感心させられました。

 

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