読者投稿オリジナル童話

光る海の向こうへ

関口 麻里子(柏市 パート・51歳)

 


 優太は海のそばに住んでいました。
 父さんと母さんは、海のそばで、イタリアンレストランを経営していました。
 「優太、大人になったら、どんな仕事につきたいのかな」
 父さんの声が、お店のキッチンから聞こえてきます。
 「ぼく、父さんのようなシェフになって、このお店を大きくするのもいいなあ」
 「そうか、未来が楽しみだなあ」
 優太が、お店のテーブルで宿題をしていると、一日一度は、父さんはそう言います。だけど、優太には、心の奥にしまっている、もう一つの夢がありました。
 毎日、夕方になると、優太は犬のルルを連れて、浜辺を散歩します。夕方がやってくる前の海は、水平線の先が黄色く光っています。優太は、映画館で観た海賊映画で、同じような光景の中に、海賊船が消えていくのを思いだしました。
 「海の向こうへ行ってみたいなあ」
 優太はルルにむかって、話しかけました。


 大人になった優太は、大型客船の操縦士をしていました。
 シェフよりも世界の海を見ることに、優太は心をひかれました。今回のツアーは、世界中をまわるので、何カ月も、レストランへは帰れません。お昼から、優太は船を操縦していたら、ルルと散歩していた、幼い日の事を思いだしていました。
(ダメ、ダメ、今は仕事中。忘れよう)
 ルルが優太の心から消えると、次は、レストランで働いている、父さんと母さんを思いだしていました。 (ダメ、ダメ、今は仕事中、忘れなくちゃ)  父さんと母さんが心から消えると、友達の健一と智也、恋人の由紀を思いだしました。
(忘れる、忘れよう)そうして、何もかもが消えて、からっぽの心には、自分だけが見えました。
 「優太が幸せになるなら、それが一番だよ。優太の好きな道を選びなさい」優太の好きな人達は、みんなそんな風に言ってくれて、優太を送りだしました。
(ぼくは、自分を大切に幸せにしよう。それから、ぼくのできる事で、みんなを幸せにしてあげたい)そう思った優太は、船の窓から見える海に向かってつぶやきました。
 「父さん、母さん、すっごくおいしい、シーフードパスタ作れるようになったよ。由紀に見せたい場所がいっぱいあるんだ。健一と智也と、夜が明けるまで話したいなあ」
 優太は、黄色く光る海の向こうへ、船を走らせていきました。

 




童話作家緒島英二さんより

 明るくスケールの大きな作品です。優太の夢を、みんなで応援したくなりますね。読後感もさわやかです。

 

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