読者投稿オリジナル童話

花の妖精

ペンネーム 七森 暁歩(船橋市・公務員・49歳)

 

     ナコは、全校集会の日にみんなの前で歌うことになった。集会委員をしている友だちにたのまれたのだ。
 歌手になりたいナコにとって夢のような話だけれど、たくさんの人の前で歌うことを考えると、なんだかこわくなってきた。
 うれしいよりも、こわい気持ちの方がちょっぴり大きいかも。
 そう思いながら林の中の道を歩いていると、奥の方で知らないお姉さんたちがテーブルを囲んでいることに気がついた。楽しそうに話したり笑ったりしているお姉さんたちは、みんな桃色や黄色や青のすてきなドレスを着ている。
 あんなところにテーブルがあったかしら?
 近づいてみると、一人のお姉さんがナコに気が付いた。
 「あら、お客様よ。どうぞ、こちらにいらして」
 さそわれるままナコはテーブルについた。
 すすめられたお茶はいいかおりがして、そえられたお菓子は花のみつのように甘かった。
 「何か心配ごとがあるの?」
 たずねられたナコは話した。歌が好きなこと、初めてたくさんの人の前で歌うことになったこと、それがうれしいんだけれど、こわいとも思うこと。
 「歌が好きなんて、すてきね。わたしたちも聞きたいわ。ここで歌ってくださらない? そんなに大勢いるわけじゃないもの、いいでしょう?」
 ナコが一番好きな歌を歌うと、お姉さんたちはみんなで拍手してくれた。
 「上手ね。すばらしいわ。たくさんの人の前で歌うときも、今みたいに歌うといいわ」
 お姉さんたちの言葉に勇気づけられて、ナコは全校集会の日、みんなの前に立った。
 するとふしぎなことに、たくさんの人がならんでいる様子がお花畑のように見えてきた。
 ナコはお花畑で楽しくなったときみたいに思いきり歌った。
 歌い終わると、大きな拍手が聞こえた。先生たちも生徒たちも、目をきらきらさせてナコを見ている。
 ナコは拍手におじぎでこたえながら思った。(やっぱり、わたし、歌手になりたい)
 そのあと、お姉さんたちにお礼を言おうと林に行ってみたけれど、あのテーブルはなく、そこには忘れられた花園のように、桃色や黄色や青の花が咲きみだれていた。
 「ありがとう」
 ナコの言葉は、お姉さんたちに聞こえただろうか。

 




緒島英二より

 今回の講評はお休みです

 

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