読者投稿オリジナル童話

ライオンの人生

千 恵子(柏市 主婦・63歳

 

  ライオンのキックは百獣の王だった。狩りは一発でしとめることができた。つややかなたてがみをなびかせて草原を走ると、気の弱いガゼルなどはそれだけで足が震えて動けなくなっていた。キックには怖いものなどなかった。
 しかし、そんなキックにも老いがやってきた。走ると息が切れて、動物は逃げていった。おまけに歯も弱くなって、シマウマを一発でたおせなくなった。ついにキックは王の地位を失った。
 毎日木の下でうつらうつらしていることが多くなった。こうなると今までキックを恐れていた動物たちは馬鹿にするようになった。仲間たちも次の王に仕えて、キックのことなど見向きもしない。
 とうとうキックはお腹がへって動けなくなった。空の上ではハゲワシが飛んでいる。
「おれもついにこれまでか」
 キックは目をつぶって死を待った。
 そのとき肉のにおいがしてきた。目を開けると肉の塊が目の前にある。少し腐りかけているけれどキックはかぶりついた。久しぶりの肉が体の中に入ると、キックは立ち上がることができ、水を飲みに出かけた。
 それから時々肉が目の前に置かれていた。
 ふしぎに思ったキックは寝たふりをしてまった。
 すると、ハゲワシがキックの前に肉をくわえてきた。
「おい、なぜこんなことするのだ」
 キックはよろよろと立ち上がった。ハゲワシは驚いて後ろに下がった。
「昔、あなた様に助けられたハゲワシです。そのときの恩返しです」
 キックは遠い記憶を探し出した。
「そういえばいつもエサを食べられないで、いじめられていたチビ助がいたな」
「はい、覚えていてくださいましたか」
「ずいぶん立派になったじゃないか」
 キックはまぶしそうにハゲワシを見つめた。
 キックは、しとめた動物を食べ終わるとチビハゲワシにかけらを投げていたのだ。それはほんの気まぐれだった。
「そうだったのか」
 キックは「ありがとう」というように頭を下げると、肉を食べずに横になった。それから深い眠りに入っていった。
 キックは空を飛んでいた。眼下の草原には、キリンやゾウの群れが動いている。ライオンたちがシマウマを狙って狩りをしている。キックはその上をぐるぐる飛んだ。
「ああ、空を飛ぶのは気持ちがいいな。おれの体の中にはシマウマもガゼルもいるんだ。
 そろそろハゲワシになるのもいいか……。」
 キックの寝顔に笑顔が広がった。木の上ではハゲワシがキックをじっと見下ろしていた。

 




童話作家緒島英二さんより

 死を背景におきながら、生きるということを考えさせられる作品です。生命のやりとりをテーマに、大自然の営みが感じられます。

 

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