朝日新聞柏支局長のコラム

柏市の農産物直売所に出向くと、地元の野菜がずらり、客もずらり。お目当ての品を手にレジに向かうと、放射線量測定結果のパネル板があった。「今もまだ、放射能測定の取り組みが続いているのか」。安全性を示す狙いだ。記憶が、よみがえってきた。
　東日本大震災があった2011年、成田支局員だった。空港にいた時、揺れが来た。空港内にある支局のテレビは、津波の襲来を生中継した。専門家が「あーっ、ダメだ」と叫ぶ中、海沿いを移動する車が次々とのみ込まれた。そして福島原発事故が起きた。
　政府が「直ちに健康に影響はない」と繰り返す中、空港には外国人が続々と来た。取材を受けた米国人は「パニックが起きていない。日本人はクールだ。尊敬するよ」。そう言い残して出発ゲートへ急いだ。
　津波の映像と出張した福島の風景が重なった。各地の放射線量を国の情報を元に確認する家族から、東葛地方にホットスポットができたと聞かされたと思う。ただ当時のことはよく覚えていない。混乱していた。私はクールでなかった。
　政府は昨年末、原発回帰に方針転換した。間もなく12年目の「3・11」を迎え、統一地方選と衆院補選もある。私たちはどんな1票を投じるのでしょうか。

朝日新聞柏支局長　斎藤茂洋