千葉豪雨、水道もエレベーターも止まったまま 松戸のマンション、再生へHPで発信

 2026年8月13日夕方。線状降水帯による豪雨が、千葉県を襲った。松戸市の国道6号そばにある分譲マンション「サンクタス新松戸」の1階全8戸は、一瞬のうちに濁流に飲み込まれた。地下の電気室は、鉄製のドアがくの字に曲がり水没した。2カ月たった10月下旬になっても、各戸の断水は続き、エレベーターは動かない。住民たちは今、ホームページを立ち上げ、専門家らの支援を求めながら、手探りで「防災マンション」へ再生する道を歩みだした。

各戸の水道は止まったまま。住民とボランティアが協力し週に1回、階段を登り、水を配布する=10月24日、松戸市

ドアが開かない

 「テレビの津波の映像が、窓ガラスに映っている」。1階に住む石田秀樹さん(63)は、自分の目を疑った。濁流が波打ちながら、目の前の庭に落ちてきていた。

 90戸が入る10階建てマンションの1階は、敷地外を流れるコンクリートの水路より、一段低い構造になっていた。夕方の豪雨で水路の方から水があふれ、1階の庭へと流れ落ちてきた。庭の植木鉢が浮き上がり、アッという間に室内に水が侵入してきた。逃げ惑う愛犬を抱き、反対側の玄関から外へ出ようとした。しかし、ドアが開かない。

水が少し引いた石田秀樹さんの庭=石田さん提供

 すでに玄関外側の廊下にも水が押し寄せ、水圧で開かなくなっていた。体重を思い切りかけて扉を開けると、すでに膝まで水につかっている状態だった。2階に相当する地上部分に出て振り返ると、1階廊下の水位は胸の高さにまで達していた。「高齢者や寝たきりの人が1階にいたら、亡くなっていたかもしれない」。1階にある8戸はいずれも被災し、中には脱出時にけがをした人もいた。わずか数分の出来事だった。

 後日、家に入ると、約1㍍80㌢の高さまで浸水していた。冷蔵庫は、台所のカウンターの上に乗っていた。家財のほとんどを失った。マンションが分譲された2003年から23年間、家族で暮らしてきた。「アルバムを処分する時がつらくて……」。今は、仮設住宅扱いで入居した、近くの賃貸の部屋で暮らす。

機能が止まった

 濁流は、マンションの地下の電気室や受水槽も飲み込んだ。エレベーターは動かず、水も止まった。各家庭の電気は別系統で問題なかったが、共用部の電気も止まった。マンションの機能が、止まった。

地下の電気室のドアは、水圧で曲がったまま=松戸市

 トイレカーや給水車が派遣された。ボランティアが1階の片づけを手伝ってくれた。管理組合は、3つの作業部会を立ち上げた。住民の衣食住などに対応する「復旧」。インフラの復旧や予算管理などを担う「復興」。被災時の科学的検証などを進める「治水対策」。「防災マンション」への再生を目指すことにした。

 2カ月ほどして、共用部の電気は使えるようになったが、エレベーターは動かないままだ。1階玄関に仮設水道を設置した。日に何度か、それぞれが階段を登って水を運ぶほか、週1回、ボランティアと住民が力を合わせ、階段を登り、各家庭に18㍑を届ける取り組みを始めた。トイレは、市などから提供された簡易トイレを玄関ホールに用意し、各戸に持ち帰ってもらっている。「生活が難しい」と一時転居する住民もいる。

再生へ

 エレベーターや給水槽など様々な修繕が必要になった。見積もりをとると、必要な費用は1億5000万~2億円。数年内に予定していた長期修繕のための積立金は約9000万円。どうしたらいいのか。修繕費用の精査を進め、管理組合の財政が破綻しないためのロードマップ作りに取り組む。

 浸水のメカニズムについての調査も進める。これからもマンションに住むためには、防水対策が必須だ。水がどこから、どのように流れ込んできたのか。現在、3D雨水流出解析を進めており、その結果を今後の防水対策に反映させたい考えだ。

 そして管理組合が進める大きな取り組みの一つが、一連の情報をホームページで公開することだ。「これまで無防備だった」ことへの反省からだ。管理組合の倉庫・治水対策専門委員会の石塚博志・共同委員長(54)は「こうしておけばよかった、ということがたくさんある。それを、他のマンションの住民にも知ってもらいたい」。

 管理組合は、火災保険の水災補償に入っていなかった。市は2019年に内水氾濫のハザードマップを公開し、昨年は改訂版を出した。マンションは浸水エリアに含まれていたが、管理組合の中で話題にならなかった。「きちんと危機感を持っていたなら、水路側の擁壁を検討したり、止水板を用意したり、できたかもしれない」

サンクタス新松戸。写真手前側に水路がある=松戸市

 マンション名を公表して情報発信することで、他の被災マンションとの連携も図りたい考えがある。「再建に向け、制度や修繕費用などについての情報を共有できれば」という。法律や施設整備など協力してもらえる専門家の協力も求めている。支援金の窓口も設けた。石塚さんは「私たちの再生の取り組みを、広く伝えることで、支援金への返礼としたい」と話す。そして、こう決意を述べた。「前を向いて、災害に強いマンションを目指していきたい」

 8月の千葉豪雨による松戸市内の被害は、同市への申請ベースで、大規模半壊8件(いずれもサンクタス新松戸)、中規模半壊29件、半壊107件、準半壊48件、一部損壊241件だった。

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