我孫子市の手賀沼湖畔でとれたブドウが、芳醇なワインとなり、今年、デビューした。ワインの名は「白樺」。ブドウ畑は、かつて志賀直哉ら白樺派の文人が集った湖畔にあることから、その名を冠した。ワイン造りの新たな物語は、ひょんな「誤算」から始まった。

ワイン用のブドウは、手賀沼湖畔にある約0.2㌶の畑で育てられている。すぐそばの丘の上には、白樺派の文人、武者小路実篤が大正時代に暮らした邸宅跡がある。ブドウの品種は、赤ワイン用はヤマソービニオン、白ワイン用はナイアガラ。昨秋収穫された約900㌔は、北海道の洞爺湖畔にある壮瞥町の「奥洞爺ワイナリー」に運ばれ、醸造された。そして今年5月から販売が始まった。
同社の醸造責任者、五十嵐樹さん(33)は「赤はフルーティーでこくがあり、白は酸味とともに苦みのある、奥行きのある味になった」と話す。ワイナリーはまだ新しい。「白樺」とともに、地元のブドウでつくった「奥洞爺」も、出荷は今年が初めてだ。
この奥洞爺ワイナリーを手掛けたのは、柏市の長妻和男さん(90)。同市に本社のあるユニットハウスメーカー、三協フロンテアの創業者だ。

長妻さんは数年前、余生をゆっくり過ごそうと、洞爺湖に沈む夕日が美しい丘に別荘を構えた。すると、隣の農家から声を掛けたられた。「後継者がいない。果樹園を買ってくれないか」。訪れると、約140年前の北海道開拓時代に植えられたクリの木の並木が、100㍍以上続いていた。そのクリの木のたくましさに惚れ、果樹園を入手することにした。すると、さらに近隣の人たちから「うちもどうか」と次々声を掛けられた。
昔抱いていた夢が、むくむくと膨らんだ。ワイナリーを造ろう。
実は、我孫子のブドウ畑と武者小路邸跡は、三協フロンテアのグループ会社が保有していた。我孫子にワイナリーを作りたかったが、条件が整わず、断念したことがあった。
壮瞥町に農業法人やワイナリーを立ち上げ、ワイン製造の体制を整えた。農園の面積は20㌶ほどになり、今年は「白樺」も含め約2000本を初出荷した。
「洞爺湖でのんびり過ごすつもりだったが、大誤算だった」。長妻さんは笑う。
北海道のワインは、地球温暖化が進む中、世界的にも注目されている。長妻さんは「ここで、日本一のワインをつくりたい」と力を込める。さらに、新しい夢がもう一つできた。壮瞥町の人口は約2200人。人口減少が続いている。「ワイナリーを中心に観光や農業で街おこしをし、町外に出た地域の人たちが帰ってくることができるようにしたい」。ワイナリーに隣接するグランピングの施設も整え、すでに動き出している。
「白樺」と「奥洞爺」は、奥洞爺ワイナリーのHPから注文できる。「白樺」は1本2970円(税込み、送料別)。白は、すでに売り切れだ。

