太平洋戦争中、千葉市に建てられた旧東京帝大の木造校舎。2022年の解体時に、校舎の一部がロールケーキを切るように輪切りにされ、東大柏キャンパス(柏市)に運び込まれた。そして今、戦争の歴史を伝えながら、新たな形に生まれ変わろうとしている。

取り壊された木造校舎は、旧東京帝大第二工学部の「共通第三教室棟」と「応用化学棟」。戦時下の1942(昭和17)年、技術者養成のため第二工学部が発足することになり、急ピッチで建てられた。
東大生産技術研究所(生研)の林憲吾准教授(近現代建築史)によると、建物の天井より下は耐震性も計算された近代的な木造建築だが、天井より上は伝統的な和小屋の技術で建てられた。梁も少し曲がっているような丸太が、そのまま使われた。林准教授は「まるでキメラ(ギリシャ神話に出てくる、頭がライオンで、胴はヤギ、尾は蛇の生き物)のような建物。でも丸太のまま使った方が、製材するより強度があり、素早く建てることができる。戦時下では理にかなっていたのでは」という。
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戦後は生研の千葉実験所として使われたが、実験所の機能は2017年に柏キャンパスに移転。建物は取り壊されることになった。研究者らから「軍都千葉を伝える貴重な文化遺産」と、保存を求める声が上がったが、解体の方針は覆らなかった。
ただ、東大の中でも「歴史を引き継ぐため、何かできないか」との声があり、林准教授らが検討することになった。そこでたどり着いたのが、一階建て部分の一部を、縦に輪切りする形で残す手法だった。
壁の部分を1.8㍍幅で細長く切り出すと、柱2本と壁を残すことができ、最小限の構造を維持できる。最終的に切り出したのは、幅14.4㍍、奥行き1.8㍍(壁の部分)、高さ7.2㍍。建物の構造の特徴もよく分かる形となった。部材すべてを柏キャンパスの生研へ運び込んだ。

この部材をどう使うか。林准教授らは、歴史のモニュメントとして再現するだけではなく、生研ならではの活用方法を検討。外部の人たちに生研の技術や研究を伝える「生研パビリオン」として再生することにした。海外からの来客も多いことから、屋根裏部分に少し外へ張り出す形で、茶室も新たに備える。旧校舎の3Dデータもあることから、実物の建物とバーチャルな遺構を同居させることも考える。
建物は2026年春、上部と下部に分け、柏キャンパスの中で仮組みされた。早ければ年内にもクラウドファンディングなどで資金を集め、東大150周年の2027年度を目標に、新たな姿を公開する準備を進める。設置場所は未定だが、生研のある駒場キャンパスや柏キャンパスなどを想定しているという。
林准教授は「各地で、近現代の建物を解体するか、保存するか、問題になっている。ただ、様々な事情ですべての建物を残すことは難しい。歴史的価値をどう伝えるか、社会全体で考えることが重要」と指摘する。
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いずれも取り壊し前の旧東京帝大第二工学部校舎の内部=2017年、淺川敏さん撮影

