朝日新聞柏支局長のコラム

　「娘を乳母車に乗せ毎週通った。給料の半分をここで使った」。柏市の旧そごう柏店を見送る催しが5月に同店であり、参加した80代女性はこう話した。店で買ったジャケットを着ていた。娘を保育所に預け都内の勤務先に向かい、週末は同店で過ごした日々を振り返った。
　他の参加者も回転展望レストランに上がり「食事がおいしかった」「あっちが東京」と周囲に説明した。主催した市の職員は「全員が笑顔の市の催しって初めて」。取材にもほぼ全員が応じてくれた。「ここは一つの街で、人々の営みがあったんだ」と感じた。
　市は、同店跡地の購入を決めた。跡地では、周辺に複数の老朽化した商業ビルがあり、新ビルを建てては移転、空いた土地に次の建設と移転を行うことを繰り返す「連鎖的建て替え」の構想を練る。市民の意見を聞きながら、子育て世帯が集まれる緑豊かな広い空間もつくる考え。
　建て替えの成否の鍵を握るのは、商業ビルの数十人いる地権者たちだろう。ビルは敷地いっぱいに立ち、その場で建て替えは困難。そんな中、「みんなで跡地に移転しよう」となるのか。
　店の取り壊し作業が6月1日に始まった。新たな街が生まれるのを楽しみにしている。

朝日新聞柏支局長　斎藤茂洋