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空色のランドセル

かとう ようこ(柏市 主婦・60歳)

 

 七月二十一日。ぼくはおじいちゃんに買ってもらった空色のランドセルをせおって、新幹線に乗り込んだ。中には絵日記とクレヨン。
 入学式があってすぐ、「オーイ、ちび」「おそいなー」などと言われるうち、ぼくは学校に行けなくなった。だから、ぼくのランドセルはピカピカのままだ。
 夏休みにはいって、ぼくは、おじいちゃんのいるいなかで過ごすことになった。新幹線がホームから走り出すと、町、森、山、田んぼと、どんどん窓のけしきは変わる。トンネルもあった。早くおじいちゃんに会いたいなぁ。
 七つ目がおじいちゃんの駅。おじいちゃんはぼくを見つけると、「よく来た。よく来た」と、頭をポンポンとなでてくれた。
 おじいちゃんは家に向かう途中、知り合いを見つけるたびに、「まごが遊びに来ました」と声をかけていた。なんだかぼくははずかしくて、おじいちゃんの後ろにかくれてしまった。
 ここで過ごした毎日を、ぼくは絵日記にした。
 八月一日。すいかわり。
ぐるぐる三回まわって、エイ。はじっこにしか当たらなかった。切って食べたら、おいしかった。
 八月七日。畑。
黄色の花はきゅうり。なすはむらさき。白はピーマン。朝、水やりして、大きなやつを取った。かごは野菜でいっぱいだ。
 八月十九日。虫とり。
あみを買ってもらった。トンボは一ぴき、せみは二ひき。むずかしい。
 八月二十五日。花火。
赤や青、いろんな色があってきれいだった。夕方の風は少しすずしくなっていた。
 今日は八月二十九日。明日は、おとうさんとおかあさんのところへ帰る。夜、ぼくはふとんの中でおじいちゃんに聞いてみた。
「ぼくは、学校に行けるかなぁ」
目を細めておじいちゃんは答えた。
「行っても行かなくても、ぼくは、おじいちゃんのじまんのまごだ」
そして、またポンポンと頭をなでてくれた。
 八月三十日の朝。
「おじいちゃん、バイバイ。またね」
ぼくは大きな声で言うことができたんだ。せなかの空色のランドセルは、少し軽くなったような気がした。

 

童話作家緒島英二さんより

 「ぼく」の全てを暖かく包んでくれる、おじいちゃんとの心の交流で、「ぼく」は自信をもって、次への一歩を踏み出すのでしょう。多くの子どもたちに、手渡したい作品ですね。

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