朝日新聞柏支局長のコラム
レイソル、『惜敗』
「うわーっ」。12月9日のサッカー天皇杯決勝で、柏レイソルがPK戦の末に敗れると、会場の国立競技場に歓声とうめき声が交錯した。私も声を上げた。さあ、原稿第1段落の「〆」はどうするか。「サポーターは熱戦を展開したチームに大きな歓声と惜しみない拍手を送った」と結んだ。
下馬評は川崎が優勢。私も「そうなのか」と思いながら、競技場で着席した。隣にいた川崎支局員は、余裕の表情に見えた。だが、試合開始とともに雰囲気は一変した。柏が攻め続ける展開に私も川崎支局員も息をのんだ。
スポーツ記事の書き方は高校野球の取材を通じて学ぶ。一方的に勝った試合は大勝と書かず「コールド勝ち」、熱い戦いは「延長戦でサヨナラ勝ち」、惜敗は「0―1で敗れる」など。主観的な表現にならないようデータをもとに書く。形容詞や副詞は避ける。そう先輩にたたき込まれた。
「熱い」「大きな」「惜しみない」。天皇杯の原稿には形容詞などが並んだ。書きながら「どうしたものか」とは思っていた。付いた見出しは「惜敗」。テレビ観戦していたその日のデスクも原稿を通してくれた。
ええい、ままよ。
先輩に言われたら、開き直ろう。熱い戦いだったし、惜敗でしたから―。
朝日新聞柏支局長 斎藤茂洋