朝日新聞柏支局長のコラム

「普段はAIを活用した勉強がメイン。判断する力が少しずつ伸ばせていると思う」。棋士の藤井聡太名人に6月、柏市であった対談後、AIの活用頻度や自身の能力拡張につながっているのかを質問すると、彼はきっぱり。AIって人の能力を伸ばすのか……。メモに力が入った。
　専門記者ではなく、対談での将棋談義の肝が分からず、時折出る笑顔をうまくカメラに収めるのにも四苦八苦した。きちんと質問できるかな。不安を覚えながら質問すると、私の目を見ながら、分かりやすい言葉を使い応じてくれた。
　将棋界のスターは、私が小さな時は中原誠さん。その中原さんは谷川浩司さんに取って代わられ、谷川さんは羽生善治さんらに取って代わられた。同世代の私は羽生さんのタイトル奪取に心が躍った。その羽生さんは今、藤井さんに取って代わられようとしている。
　多くの仕事がAIに取って代わられるのではという懸念と、他方ではAIを使いこなす若い世代。質問は実は世代交代とAIへの警戒心、藤井さんの活躍への興味から出たものだった。仕事を奪うだけではなく、人の能力アップに役立つ可能性があることを藤井さんが示してくれている。彼はAIとどんな伴走をするのだろうか、見続けたい。

朝日新聞柏支局長　斎藤茂洋