朝日新聞柏支局長のコラム
国枝さんとの15年
車いすテニスの国枝慎吾さん=柏市出身=の国民栄誉賞受賞に合わせ、ペアを組んだ斎田悟司さんに道のりを聞くと「競技は当時、リハビリの延長線上のものと思われていました」と話した。2人が2004年のアテネ大会で金メダルをとったころの話。あれっ、それは当時の自分だ――。
05年前後、福岡県で勤務していた。車いすテニスの国際大会が近くであり、出向くと、国枝さんらが練習していた。初めて見た。周囲から病気や事故に遭った人の競技と解説された。「可動範囲を広げるためのリハビリを、がんばっているな」と思った。
斎田さんは「2人で、スポーツとして見てもらえるようにしたいと話してきた」と続けた。サーブアンドボレーなども導入、社会面だった記事は、やがて運動面に。今、スポーツの一種として記事を読む。
私の意識は、この15年余で「不運な目に遭った人たちががんばる競技」から「人それぞれの立ち位置で挑む競技がある」となった。こう変えてくれた人たちが、東葛地域の空の下にいる。そう思うと、勇気が湧いてきた。
現役を引退した国枝さんは5月25日、柏市のPR大使になる。私の中に宿る古い感覚を変化させる発信をまた、見聞きしたい。
朝日新聞柏支局長 斎藤茂洋