読者投稿オリジナル童話

過去の話題一覧

がんばった バーバのひざ

池田 文江 (柏市 主婦・76歳)

 

 夕方になると、つかれて、足をひきずりながらパートから帰ってくるバーバ。
 ある日いつもより早く帰って来た。あまりのひざの痛みでがまんできず、仕事の途中で帰って来たらしい。帰りにかかりつけのクリニックで注射をうってもらい、自転車をひきながら家にたどりついた。そのあとも、痛みは良くならず、大きな病院でひざを手術してもらうことになった。今まで痛い痛いと言いながら、いつも家族の家事をこなしていたバーバが急にこわれてしまった。ジージとぼくたちは、大いにあわててしまった。
 手術が無事に終わったとの連絡は来たけれど、丁度コロナ禍でだれもおみまいにいけなかった。それでもジージは病院の人に頼んでみたけど、病室には入れないとのことで、がっかりして帰って来た。次の日に15分だけの面会を予約してきた。ラウンジでならとのことでみんなで会いに行った。バーバは車イスにのり、点滴やおしっこを集める袋を下げてラウンジに連れてこられた。15分だとなにを話していいのか、みんな少しの間だまっていた。
 「みんなありがとう。心配したでしょう。今は痛み止めのくすりがきいているので大丈夫」と、手術をする前より元気な声だった。15分はあっという間にすぎてかんごしさんがむかえに来て、病室に連れていかれてしまった。ぼくたちは、しばらくの間また会いに来てくれそうな気がして、ラウンジにいたがこないのをたしかめてお家に向かった。帰りにジージがお弁当をかってくれて、バーバのいない夕はんを食べた。みんな手術の事が気になっているのだが、話さず、ただテレビからの音が聞こえているだけだった。
 みんなは、それぞれお仕事や学校があるのでジージが面会の予約をとりバーバのところへ行った。バーバの好物のジュースをこっそり渡そうとしたが、だめらしい。けどジージはむりに渡してきたらしい。
 一週間目にみんなで面会に行くと、なんと歩行器ですまして歩いて来た。リハビリをがんばり、車イスでなく歩行器をおして自分の足で歩いて来た。次の面会の時は杖をついて歩いて来た。
 「大丈夫なの!!」
 ぼくたちはおどろいて、声をそろえて言った。すご~くほっとした。家の事やみんなの体調を心配してるバーバに、われ先に少しこうふん気味に話した。バーバも安心してうれしそうに聞いていた。
 16日目に退院してきた。ひざをまげることがむずかしいので、イスとベッドの生活が始まった。痛くてつらいリハビリを、みんなの所へ早く帰りたくてがんばったと言っていた。
 きっとバーバの性格だから、だまって歯をくいしばって、がんばったんだろうな。

 

童話作家緒島英二さんより

 バーバが今まで生きてきた頑張りが、ひざの痛みを通して伝わってきます。バーバを取り巻く温かな眼差しが、心地よく描かれています。バーバはまた、確実な一歩を踏み出していくのですね。

Copyright(C) 2012 RESUKA Inc. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.

朝日れすかPLUSのホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。

ページトップへ