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雷さんになっちゃう?

森川 敏子 (我孫子市 主婦・85歳)

 

 リキくんは三才。寝る前にお母さんに歯磨きしてもらうのですが歯磨きが大嫌い。「虫歯になっちゃうよ」「歯医者さんでガリガリされるよ」「歯がなくなっちゃうよ」とお母さんから怖いことを言われても「虫歯なんかならないもん」「歯医者さんなんか行かないもん」と逃げ回ります。最後にお父さんに捕まえられていやいや歯磨きをしておやすみなさいをするのです。
 雷が大暴れした次の日の夜、そろそろ「歯磨きいやいやタイム」が近づいて来たとき、おばあちゃんがリキくんに話しかけました。「リキくん雷好き?」「嫌い」「そうだよね、おばあちゃんも大嫌い」それからおばあちゃんが少し小さな声で「あのね、雷さんは歯磨き嫌いな子が大好きって知ってる?」リキくんの手がおばあちゃんの指をぎゅっと握りました。「お空の高い所から歯磨き嫌いな子はいないかなっていつも探してるの。歯磨き嫌いな子を見つけるとゴロゴロピカピカって降りてきて高いお空の上に連れて行っちゃうの」リキくんの手にもっとぎゅっと力が入りました。「連れていかれた子はどうなっちゃうの」「雷さんはね、雲のブランコや雲のトンネルで遊んだりたいこをトントン叩いて踊ったりしてその子と仲良しになるの」おばあちゃんの声がすこし大きくなりました。「でもね、雷さんは人間の子どものおへそを食べるのが大好きなの。仲良く遊んでいる間に人間の子どもが気が付かないうちにその子のおへそを取って食べちゃうの」おばあちゃんの指を握っていたリキくんの手にますます力が入りました。「おへそ食べられちゃった子はどうなっちゃうの?」リキくんが怖そうに聞きます。「その子はね」おばあちゃんの声が少し小さく低くなりました。そして、すこしの間だまっていたおばあちゃんの声が大きくなりました。「雷さんになっちゃうの」リキくんが両手でおばあちゃんの指を握りしめました。「雷さんになっちゃうとお父さんやお母さんの所に帰ってこられないの?」リキくんが不安そうに聞きました。「だって、雷さんになっちゃったんだもの。雷さんのところにいるしかないでしょ」リキくんはおばあちゃんの指を力いっぱい握ったまま、じいっと動きません。なにか一生懸命考えているようです。しばらくそのまま動かないでいたリキくんがおばあちゃんの指を離すと、キッチンでお仕事をしているお母さんの所に行きました。後ろからエプロンをツンツンと引っ張って大きな声で「歯磨きする」と言いました。歯ブラシを持ってきたお母さんのおひざにゴロンしてリキくんは大きくお口をあけました。
 今夜は雷さんが暴れそうもありません。星がキラキラ光っています。

 

童話作家緒島英二さんより

 おばあちゃんの思いを受け止めて、成長していくリキくんの歩みが、とてもよく描かれています。大事な人との関わりの中、皆、リキくんのように、力強く一歩を踏み出していくのでしょう。

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