読者投稿オリジナル童話
あーちゃんのハル
船越 ちよみ(柏市パート・64歳)
キーンと冷たい朝の空気が少し優しくなってきました。布団のトンネルでいつまでも眠っているあーちゃんが、今朝はトコトコ起きてきました。そして、びっくりしているお父さんとお母さんに言いました。
「あーちゃんの冬眠は終わりです。」「トウミン?」「あーちゃん、そんな言葉どこで覚えたんだ? パパなんか、3年生になるまで知らなかったゾ! ママは、いつ知った?」そんな2人にかまわず、あーちゃんはどんどん身支度をします。そして、お気に入りのつば付き帽子をかぶって玄関から隣の公園に出かけました。
公園の入口では、黄色のタンポポが一つ咲いていました。「おはよう。タンポポさんはどうして地面にくっついてるの?」しゃがみながら、首を左右に揺らしのぞきこむあーちゃんにタンポポは言いました。「だって、まだ寒い時もあるし、咲いているのはワタシだけだから、さみしいの。だから、小さくなってるの。」あーちゃんはうんうん……と聞きながら「早く、たーくさん暖かくなってタンポポさん達がいっぱい咲くといいね。そしたら、さみしくないね。」と言って、バイバイをしました。
公園の中に入ると、白い花びらがはらはら落ちてきました。チィ チィッ……見上げると小さな鳥さんがグループになって、おしゃべりしながら、花のみつを吸っています。とても忙しそうです。「ことりさん、どうしてそんなに飛び回っているの? ごはんは、ゆっくり食べなさい……って、ママも言ってるよ。」「心配ありがとう。でも、私達メジロは小さいでしょ。葉っぱの無い冬にゆっくり食事してたら、カラスやタカに見つかっちゃうの。捕まったら大変! だから、急いで蜜を吸うのよ。」「いじわるされちゃうんだね。わかった。たーくさん蜜を吸って、大きくなってね。バイバイ。」
梅の木のメジロさん達と別れて、あーちゃんはすべり台の所に来ました。そして、落ちていた小枝を拾って、何かを探し始めました。「ねぇ、いないの? もう起きてよー。」一生懸命、声をかけ続けていると一匹のダンゴムシが出てきました。「あーちゃん、うるさいんだけど……。」不機嫌そうです。「だって、ダンちゃんがいないから……。ねぇ、アーリはどこ?」と言うと、ダンちゃんは「アーリはもっとお花が咲いて、蝶々さん達が飛び回るまでは、土の中のお家から出てこないよ。」と教えてくれました。そして「僕もまだ寒いから、みんなとおしくらまんじゅうしながら、すべり台の下で隠れてるよ。あったかーいハルになるまで、あーちゃんバイバイ。」そういうとダンちゃんは、いなくなりました。
「ただいまー。おやすみなさーい。」家に帰って、うがいと手洗いをしたあーちゃんは、パジャマに着替えて布団のトンネルに入りました。
童話作家緒島英二さんより
小さな生き物たちとの交流が、あーちゃんの心を優しく温めていってくれるのですね。次の季節へと進んでいくあーちゃんの、未来へ向かう思いが、とても心地よく伝わってきます。