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天国ののぞき穴

菅原 当栄 (鎌ケ谷市 主婦・72歳)

 

 となりの公園のももの花がきれいに咲いているあたたかな朝に小さな犬のモモちゃんがお家にやってきました。その日のモモちゃんはとても小さくママの手の平にすっぽり入ってしまうほど目はまんまる、耳は長くて走るとヒラヒラします。そして黒と白の体はスベスベでさわっているとなんだか心がホンワカしてきます。パパもママもお兄ちゃんもお姉ちゃんもモモちゃんの歩くすがたやねそべったりオモチャであそんだりしている時のしぐさがかわいくて目がはなせません。みんな「だっこ」したくて「モモちゃん おいで―」って言いながら取り合いになってしまいました。
 やがてあんなに小さかったモモちゃんは1才になり、お姉ちゃんがピアノをひきはじめると「ワーンワーン」と歌いだし、お兄ちゃんがギターをひきだすと「ワーンワーン」と歌います。そのとくい顔にみんな手をたたいて大笑いです。
 家族にあいされしあわせいっぱいだったモモちゃんもいつのまにかすっかり年を取ってしまい、今では15才になりました。目は見えなくなり体はアチコチいたいのでゆっくりゆっくり歩きます。ある日のこと、モモちゃんの心がお空に向かって「スー」っとのぼり始めたのです。そうです、モモちゃんは天国への坂道を「トットコ トットコ」と歩きだしたのです。その時ふしぎなことに目が見えるようになり体もぜんぜんいたくないので楽しそうにのぼって行きます。そしてやっとたどりついた所は犬の天国でした。そこはお花畑やみどりの草原や浅瀬の川がサラサラとながれているきれいな所だったのでモモちゃんは大よろこびです。
 犬の天国ではけがをしていた犬も病気だった犬も全部なおり、すっかり元通りの体に戻って楽しそうに遊んでいます。モモちゃんが天国に来てしばらくすると、たくさんの犬がそれぞれの「のぞき穴」に目をくっつけてうれしそうにしています。「何かな」と思いさっそくモモちゃんも近くの「のぞき穴」をのぞいてみました。するとそこにはモモちゃんが住んでいた家の回りが見えたのです。「あっパパが家の前をそうじしている。ママがお花に水をまいているわ」モモちゃんはうれしくてはね回りました。「だってこの穴をのぞけばいつでもパパやママに会えるもん。お兄ちゃんお姉ちゃんにも時々会えるもん。だっこされなくても平気ガマンガマン」とモモちゃんは心の中で言いました。遠くから「モモちゃーんおいで―」と呼ぶ友だちの声がきこえてきたので「今行くよー」ってさけびながら走って行きました。「ワンワン」「パパ ママしんぱいしないでねー」

 

童話作家緒島英二さんより

 久遠の心の温もりや、のぞき穴の夢の力を感じます。

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