読者投稿オリジナル童話
母さんと手をつないで
柳楽美智子 (松戸市 介護福祉士・63歳)
母さんが走っている。
私は追いつき、手をつなぎゴールをめざした。
一瞬、子どもの頃のことが脳裏に浮かんだ。
年の初めは、町内会の親子マラソンに参加していた。
走るのは好きではなかったけれど、母さんと手をつないで走ることがうれしかった。
走る前はドキドキしていやだったけれど、走っているうちに、「ファイト‼ がんばって‼」の母さんの応援で、ゴールをめざすぞ‼ という気持ちになっていく自分を知った。
完走できたことに、がんばりの達成感が楽しかった。
母さんは毎朝、走っていた。
ポツポツポツ、「あっ雨だ」目が覚め、雨でも走ってる母を思いながら、再び寝入っていた私。
目が覚めると、走りから帰って、台所で朝ご飯の準備をしていた。
ある日、洋服に着がえ走りに行った母さんの後を追うように、外に飛び出した。すると、どこからか子犬が出てきて、私の後ろについてきた。怖くなってダッシュで、元来た道に戻り、家にたどりついた。しばらくドキドキと心臓の音が止まらず、そして泣き出した私。
一人では絶対走らないからと決めた。
中学生になってからは、バレーボールに夢中。社会人になった今は、バレーボール部に入って練習をしている。
離れて暮らしている母さんから「10㎞マラソン大会に参加してみない? 一緒に走れるいいチャンスだと思う」と電話があったが、その日はバレーボールの大会があると断った。
しばらくたって、「一緒に走れる」という言葉に、今しかないと決め、参加すると返事をした。
そして、30年ぶりの親子マラソン。
私は、母さんと一緒に走っている。
「母さん、ファイト‼ がんばって‼」
私は母さんを応援し、そして今、手をつないでゴールをめざし走っている。
童話作家緒島英二さんより
母と子の絆とは、時空を超えて心を繋ぐものなのでしょう。