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くまのおべんとう

かとう ようこ(柏市 主婦・59歳)

 

 むかしむかしの夢のお話です。
森の中にお母さんと二ひきの子ぐまの親子が住んでいました。
「お母さん、おなかがすいたよ」
おなかがすいているのはお母さんぐまも同じでした。今年は、あらしや日照りで、森がきずついていたのです。くまの食べ物のこん虫が少なく、どんぐりや木いちごなどにもあまり実がなりませんでした。
間もなく冬がやってきます。くまの親子は冬眠にそなえなくてはなりません。暖かい春をむかえるまで、木の根元のあなの中で、あまり動かず眠ってすごすのです。そのためには、眠りに入る前に、おなかいっぱい食べておかなくてはなりません。
お前たちはここで待っておいで。お母さんが食べ物をさがしてきますよ」
 実は、子どもたちだけでるす番をさせるのは初めてでした。
でも行くしかありません。
行こう、たくさんの食べ物がある、もっと森のおくへ。
「お兄ちゃん、お母さん行っちゃった」
「うん、二人で待とうよ」
「お兄ちゃん、お母さんだいじょうぶかな」
「だいじょうぶさ。お母さんは強いんだ」
「お兄ちゃん、おなかすいた」
「お母さんは、きっと約束を守ってくれる。ぼくたちの大好物いっぱいのおべんとう、どっさりもってきてくれるよ」
「おべんとう? うん、そうだね。楽しみ」
 あたりはすっかり暗やみにつつまれ、木と風のザワザワとした音がきこえるばかりです。
バサ
バサバサ
バサバサ バサバサ
「あ、お母さんだ。お母さんがかえってきた!」
 そうです。お母さんです。ことばどおり、食べ物といっしょにかえってきたのです。
「お母さーん」
「ただいま」「さあさ、たくさんめしあがれ」
 子どもたちは、お母さんに思いきりだきつくと、あとはもう食べ物に夢中です。
 お母さんは、つめたい水の谷をこえたこと、うさぎやほかの動物に出会ったこと、深い森が続いていたことなどを話してくれました。
 でも、子ぐまたちにはよくきこえていません。もう、半分夢の中にいたのですから。

 

童話作家緒島英二さんより

 お母さんの思いのこもった食事は、子どもたちの心も満たしてくれることでしょう。

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