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紙ヒコウキに乗って

山田 よしみつ(流山市 無職・89歳)

 

 「ぼくは紙ヒコウキの達人だ」
 昨日学校で紙ヒコウキ飛ばし大会で断トツの一位になった。みんなが、「やったね。ひろし、まさに達人だ」とか言ってくれた。「よし、それなら達人らしく紙ヒコウキ飛ばしの技を磨こう」と心に決めた。今日はこの広い六号公園で思いっきり飛ばして公園にいるみなさんに達人技を見せてあげよう。
 ……まず一号機。息を吸って気合を入れて、「えい、」……あれれ、……あまり飛ばない。二号機もやっぱり、さっきと同じように少しだけ飛んでストンと落ちる。口惜しいことに幼稚園の子たちがとばしたシャボン玉は遠くの空まで飛んで母乳車の赤ちゃんが「きゃっきゃ」と笑っていた。「下手だなぁ……それじゃあ、とばないよ」どこからか笑い声がする。ふりむくと帽子も小さなマントも黒い服装の男の子がにこにこ笑っていた。……何だ、こいつ……と思ったけれど下手は本当だから仕方がない。
 「ちょっと、それかしてみて」ひろしがわたした紙ヒコウキに、『鳥になれ、羽になあれ』何やらおかしな呪文を唱え、紙ヒコウキをなで「それっ」と空にほうり投げた。するとびっくり、紙ヒコウキはすぅーと風にのってずっと遠くの空まで飛んでいった。「えっ、まじ、よく飛んでる。何で」ひろしは信じられないように何回も眼をこすった。続いて飛ばした二号機もよく飛ぶ。すごい。空中で何回も宙返りして高い桜の木の枝に引っかかった。男の子が手招きをすると「すうっ」と枝をはなれ、手もとにとまった。ひろしは思わず、「すごい、すごい、君こそ本物の紙ヒコウキの達人だ。ぼく、弟子になってもいい。先生その技、教えてください」すると男の子は「ぼく先生じゃないよ。風の子学園の一年生。名前は、風野ふう太。だけど、ぼくらはこれから北の国の野山に春になったお知らせに行くんだ。「緑になれ、花よ咲け」とね。忙しい仕事だから、ごめん、時間がない。行かなくちゃ」と空を見上げる。
 すると、うかんだ雲のどこからか、「こらっ、風太、そんなところで遊んでちゃだめ、置いていくよ。早く来なさい」「あっ、風子先生だ」「わかった。すぐ行きます」そして、「ひろしまた会おうね。今度飛ばし方教えてあげる」風太はくるりとひと回りするとつむじ風になって消えてしまった。ひろしは何度もまばたきをして風太の消えた空を見上げていた。
 その夜ひろしは夢を見た。風太と二人で巨大な紙ヒコウキに乗って広い空を飛んでいる。二人で『春だぞう』と声をかけると枯れた野山は見る見る緑に変わって、花も咲き春の世界に変わっていった。

 

童話作家緒島英二さんより

 ひろしとふう太の達人技が、魔法のごとく人の心へと飛び込んでいく思いに包まれます。

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