読者投稿オリジナル童話
未来のフィナンシェ
関口 麻里子(柏市 主婦・55歳)
ぼくはいつも通り、小学校が終わって家に帰った。すると、ママが夕食のカレーをつくるのに、ルーが足りないことに気づいた。
ぼくはママとじーじにたのまれて、自転車で、近所のスーパーまで買いに来た。そして、買い物が終わってスーパーを出る時、じーじのスマホに電話をした。
「もしもし、陸君だね」
「はい、ルーは買ったよ、これから帰るから」
「帰り道気をつけて」「はーい」
ぼくは、うなづいてスマホを切った。
ぼくは帰り道、じーじのことを考えた。
ぼくたち家族が、じーじと暮らしはじめて半年が過ぎた。それまでじーじは一人暮らしだった。いつでも、じーじと話せるようになったけど、ぼくは、じーじと電話をするのが好きだ。なぜって、小さい頃からよく、じーじに電話をしていたから習慣もある。でも、それよりも、じーじは電話をかけた人がわかっていても、もしもしって必ず最初に言うからだ。いつでも、じーじのもしもしは、変わらないおだやかな声だ。(じーじのもしもし、ぼくは大好きだなあ)
誰にも言っていない、ぼくだけの秘密だ。
「ただいま」ぼくが家に帰ると、ママは、カレーをつくっている途中だった。「お帰りー、ありがとう、陸君」ぼくは、じーじとママに同時に言われた。
パパの帰りが遅いから、三人で先に食べた。ママのカレーライスは、お肉も野菜もやわらかくておいしい。カレーライスを食べ終わると、ぼくとママはデザートの時間で、じーじはお薬の時間だ。じーじは、以前よりも食べなくなっていた。
プリンを食べていると、じーじが言った。
「そうだ、陸君が大きくなったら、大人用のスイーツ味のお薬をつくったらどうかなあ。今のお薬でもいいって人も、いるだろうけど、未来にそんなことがあってもいいよね」
「じーじ、毎日、いっぱいお薬を飲むからね。そうなったら、お薬の時間も楽しみだよね」
「私はフィナンシェがいいなあ。それで、コーヒーで食べれると最高だな」「わかった、未来のリストにいれておくよ」「ありがとう、待ってるからね」じーじの目が笑った。「いいわね、夢があって、ママは毎日大変よ」ママはそう言いながらも笑った。
ぼくは食べ終わると、片付けをお手伝いして、お風呂に入り、そして、ベッドの中で考えた。(算数も得意だし、料理も好きだから、スイーツ味のお薬をつくるのもいいかも)そして、ふと、自分につぶやいてみた。「もしもし、ぼくの未来……」
ぼくは未来に、一歩近づくために眠った。
童話作家緒島英二さんより
温もりあふれる家族に囲まれた、クバの幸せな日々が心を和ませてくれます。クバはみんなの宝物ですね。