読者投稿オリジナル童話
風と木と鳥と
かとう ようこ(柏市 主婦・58歳)
今年もまた、あの季節がやって来る。夏鳥たちがあたたかい国へと旅立つ、はだ寒い秋だ。ツバメ、カッコウたちが、空にはばたきはじめた。わしはそれを見かけると、いつも両手をふってこうさけぶ。「おーい、先はまだ長いぞ。休んでいかないかー」と。
「ピールーリーリージジッ」
お、今日のお客さんは、オオルリたち。美しい鳴き声の鳥だ。「こんにちは、木のおじさん。おじさんの体はあたたかいね」「そうか、あたたかいか」
「ぼくたちは、いくつかの山や森をこえてここまでやってきたんだ」
「山や森をこえたか。このあたりも、少し前まではもっと大きな森じゃったんだが……」
「ほんとうに?」
「そう、ここもかつては森だった。わしのまわりには、たくさんの兄弟や友だちもおった。春には梅の花がさいた。夏や秋には、チョウチョやかぶと虫が集まり、コオロギやスズムシの声がひびいたものだ。そうそう、リスやたぬきを見かけたこともあったのう」
「そのあと、それからどうなったの?」
「やがて人がやってきて、そのうち小さな村ができた。いつの間にか、わしのまわりも少しずつかわっていったんじゃ。田や畑がひろがり、家もふえていった」
「さみしい?」
「どうかのう……ほら、あそこに小さな神社が見えるじゃろう。わしの兄弟や友だちは、あの神社の柱や屋根になって、今でもあそこにおる」
「柱や屋根?」
「そう。この神社ではお祭りもおこなわれていたんじゃ。ちょうちんに火がともり、おはやしが鳴り、わになってぼんおどりもしておった。わたあめやきんぎょすくいの夜店もでて、それはそれはにぎやかだったものじゃ……。今でもな、この神社には、一人二人と人がやって来て、手をあわせて帰る」
「なにをおねがいしているのかな?」
「さて、なんじゃろう……。よーし、わしは、きみたちの旅のぶじをねがうとしよう。おしゃべりがすぎたようじゃ。さあ、出発のときじゃ。いい風もふいてきた」「ありがとう、木のおじさん。さようなら」
オオルリは顔をあげ、足でひとけりすると、一気にとび出した。
「気をつけていくんだぞー」
童話作家緒島英二さんより
季節と時代の移ろう中、確かな心の繋がりが深く伝わります。