読者投稿オリジナル童話
酒盛りの中のごんちゃん
佐藤 典子(流山市 主婦・79歳)
18才でお星様になったごんちゃんは、柴犬の雄で4本の足の先、鼻の先、胸の所が白くなり、まるでソックスをはいているような、そして、静かな目がくるりとした可愛らしい犬だった。
沢山の想い出を残してくれたのだがその中でも春になるときまって想い出されるのが江戸川の河川敷での散歩の時の出来事である。
私は桜の舞い散る江戸川の川面をぼーと見とれている間にリードを放してしまったのである。気がついた時にはごんちゃんの姿が見当たらず、美しい花の世界から、現実に引き戻され、声の限りを振りしぼって叫んだ。
15分位捜しただろうか、とても長く感じた。とある菜の花畑の中に、20人位の人々が車座になって、楽しそうな宴会を開いている場面に黒い背を丸くして口をモグモグと動かしている動物がいた。ごんちゃーんと大声で駆け寄った。まさに我が家の愛犬ごんちゃんであった。
飼い主の事など何のその、夢中で焼鳥をくわえ、満足そうに、どうだいいだろうと言わんばかりの空気を体全体から振りかざしている様であった。すっかり宴の人々に慣れ、クロちゃんと呼ばれていた。ごんちゃんは自分が人間だと思っている様である。ごんちゃん帰ろう、よかったねとお礼を言ってリードを引っ張ると、首を左右に振り、拒否するのである。宴の人達は大笑いしている。まだ宴会は終わっていないと言わんばかりの顔で私をじっと見つめていた。
ごんちゃんがいなくなった今でも桜の季節が訪れると、江戸川に行けばごんちゃんに会える様な気がして、想い出を追っていそいそと江戸川の桜の中のまぼろしのごんちゃんに会いにゆくのである。毎年毎年私の心を癒してくれるごんちゃんである。
童話作家緒島英二さんより
どんな生命も誕生と終焉という宿命は、逃れられないものですね。ならば、どう生きるのか。ごんちゃんの思い出が一つの答えです。