読者投稿オリジナル童話
不思議の森サーカス
山田 よしみつ (流山市 無職・88歳)
「森のいずみ大サーカス来る。山の動物多数出演」
町のあちこちにこんなポスターが貼られました。悪い病気が流行ってずっと元気がなくなっていた町の人は
「あまり聞いたことがないサーカスだね」
「でも、何だかおもしろそう」
「ただとかいてあったね、家族で行ってみようか」
開演の日になりました。どこからかきれいな音楽が流れ、霧が晴れた町はずれの広場に「あれ、いつの間に」びっくりするような大きなテントがはられていました。
木の切り株を並べた客席にたくさんの町の人があつまって「やあ、ひさしぶり、元気であえてよかった」あちらこちらでうれしそうな会話がかわされました。
天井からふといつなを伝って緑の葉をからだにまといとんがり帽をかぶった男がおりてきました。
「町の皆さん、ようこそ、私は山の森に千年も住む森の精です。いつも山の動物達が町にあらわれめいわくをかけて本当にすみません。山の精たちで動物たちに『森のいずみスクール』を作りました。そこで動物たちにいろいろな芸を教えています。今日はお詫びのしるしに動物たちががんばっておぼえたそれぞれの芸をお見せしたいとおもいます。なれない芸もたくさんありますが楽しんでくださればさいわいです」
たいこが「ドン」となるとその姿は消え、かわりにまん中のステージにたくさんの野うさぎが出てきて軽快なタップダンスを始めました。町の人たちは大喜び「すごい、こんな楽しいの生まれて初めて」
つぎに出てきたのはピエロの帽子をかぶって狸と狐、とんぼ返りをするたびにはく手をあびてとくいそうです。鹿の背中でさか立ちするサルたち、三輪車にのった猪、小熊を連れたお母さん熊はじょうずになわとびをしていました。次から次に見事な芸に客席の町の人々はもうびっくり。
母さんアヒルの後を追いかけてよちよち歩きのアヒルのひなが何回もこけるとそのたびに「かわいい、おかしい」、笑い声が沸いて手びょうしで応援を始めました。
やがて日が暮れかかるとどこからか森の精の声が聞こえてきました。「ありがとうございました。楽しんでいただいてよかったです。今の記念に花のたねをさしあげます」「きれいな花が咲きます、咲いた花を見ると心がやさしくなりだれでも仲良くなれます。もちろん山の動物たちとも、ではまた、いつかの日にお会いしましょう」出口に動物の子どもたちがならび色とりどりの風船をまちの人たちにくばってくれました。
やがて、どこから現れたのか何台もの大きなバスに乗って夕日の沈む山の向こうに消えていきました。どこへ行ったのかだれもしりません。風船の花の種はきれいな花を咲かせ町の人をやさしくつつみました。
童話作家緒島英二さんより
悪病流行の時世を重ねながら、それに打ち勝つ「楽しさ」という光が輝いてきます。