読者投稿オリジナル童話
森の不思議犬 エル
山田 よしみつ(流山市・無職87歳)
都会育ちの敬太にとって今年の一学期はコロナのせいで最低の年だ。学校へも行けない。毎日家の中でごろごろ、友達とのメールも「つまらないなあ、何してる」「宿題たまって困る、助けてくれ」互いに愚痴ばかりだ。こんな生活をずっと続けていると何だか本当に悪い病気にかかってしまいそうだ。そんな時、山奥に住む山小屋経営のおじいちゃんからメールが来た。
「そっちはコロナで大変だな、山はいいぞ、こっちへ来るか?」「えっ、行ってもいいの、行く、行く」
「ただし、一人で来い。駅からちゃんと歩いて登ってこい」そんな約束どおり敬太は駅から山道を登り始めた。すこし歩くと一匹の犬が道に座って尾を振っている。胴着に「案内犬エル」と書いてあった。エルといっしょに二時間もかけてやっと山小屋に辿り着いた。
「おう、来たか山道をよくがんばったな」おじいちゃんは前より元気そうだ。「うん、がんばった、それにしてもこの犬えらいね、道を教えてくれた」
「今はコロナで誰も来ないがいつもだと一日に何回も往復して登山客の道案内をする。それにエルは遭難しかけた登山者を助けたこともある」といって首に勲章の首輪をさげた犬の写真と額に入れた感謝状を見せてくれた。「このエルはな、山で迷ったのか、または捨てられたのか、飢えと病気で死にそうな時、おれが拾って助けた犬だ。それがよほどうれしかったのかこの小屋から離れようとしない。今はいっしょに働く仲間だ。それにこのエルは不思議な力を持っている、動物たちの苦しむようすが予知できるのか、森の動物たちをたくさん助けている」
「枯れ木にはさまった子狐、川でおぼれかけた子だぬき、わなにかかったうさぎ、数えればきりがないが」
「だから、森の動物たちもエルも、いっしょにいるおれも、ちっとも怖がらない。仲間だと思っているんだろう」
外に出てみると大きな餌箱に子狐が三匹えさをたべている。エルが母狐と並んでやさしい眼で三匹を見ていた。おじいさんが指笛を吹いた。すると、小鳥たちが飛んできた。エルが空に吠えた。するとウサギやリスたちが森かげから姿を出した。まるで新しい仲間の敬太を紹介するかのように……「さあ、山の秋は短い、やがて厳しい冬が来る。森の動物たちもおれ達も大変だ……忙しいぞ敬太、薪割り手伝え」……
三日がたった。
……おじいちゃん、エル本当にありがとう……
振り返って山に向かって敬太は叫ぶ。すばらしい思い出とコロナに負けない勇気をもらって山を下りた。
童話作家緒島英二さんより
時世を背景に、不変な癒しの心が描かれています。エルを通して、敬太は掛け替えのない宝物を得たでしょう。漢字の使用に一考を。