読者投稿オリジナル童話
反対じいさん
桜田 慶子(柏市 無職 74歳)
「火事だー、火事だー、反対じいさんの家のほうだぞー、火が見えとるぞー」
村中の人が駆けつけると、田んぼの端で、ボーボーと焚火を焚きながら田植えをしている助三じいさんがいました。「ギョ!!」じいさんも燃えているのか? と思う位、真っ赤な顔。「何だ何だじいさん、こんな夜更けに何をしているんだよ。火事かと思うだろう。びっくりするじゃないか」
「俺は田植えをしてるだけだ、皆、帰れ、帰れ」
「やあ、反対じいさんには困ったもんだよ、何しろ我々とはまったく反対の事をするんだからな」「じいさん、いい帽子じゃないか、と声かけたら、あっという間に裏返しにして被ったぜ」「村の運動会では、ゴールに向かわず反対方向に走ったものだから、一緒に組んだタミちゃんは大泣きだったな」「家族を亡くして一人になってからだよ、嫌われじいさんになってしまったね」「だから、皆、反対じいさんと呼ぶんだよ、本人は知らないけど」大人達の話を聞いていた五歳の良吉がいいました。「反対じいさんは、体の中にトゲトゲが生えているんだね」
「えっ」大人達は「トゲトゲ」、「トゲトゲ」と頭の中で呟きながら暗い夜道を帰りました。
ザー、ザー、何日も何日も雨が降り続いています。
村長さんは村人の前で言いました。「今夜が危ない、洪水が起こるかもしれない。山の上の神社に避難しよう」でも、反対じいさんはどうしても家に残ると言い張ります。その時、また良吉が言ったのです。「助三じいさん、もうトゲトゲを抜いたら? トゲトゲは痛いよ、体中痛いよ」と。
反対じいさんは、「はっ」と我にかえったようでした。なぜって、それは良吉の瞳があまりにも美しくみえたからです。
神社には村人全員が集まりました。その中に、瞳がやわらかな光で覆われた反対じいさんもおります。トゲトゲがすっかり無くなったのだと、分かりました。
外はものすごい雨音、それなのに!! 村人はぐっすり眠っています。きっと皆の頭の中からも、トゲトゲ、トゲトゲが消えたからにちがいありません。
童話作家緒島英二さんより
おじいさんの描き方がとても巧妙で、その個性に魅かれます。おじいさんは村の中で、生き生きと過ごすことでしょう。