
今回ご紹介する映画は、『八月の声を運ぶ男』。本作は、長崎に暮らし、日本全国を渡り歩いて被爆者の声を集め続けた、ジャーナリスト・伊藤明彦の実話に基づく、原爆によってもたらされた数奇な出会いの物語。
高度経済成長を遂げた1972年の日本。豊かさを追い求めるその時代の流れに逆らうかのように、長崎の放送局出身のジャーナリスト・辻原保(本木雅弘)は被爆者の声を集め出す。しかし、まだあまりにも生々しかった原爆の記憶を語ろうとする者は少なく、それは周囲からも理解されない孤独で過酷な作業だった。
その最中、辻原は一人の被爆者・九野和平(阿部サダヲ)が語る「声」に感銘を受け、心を激しく揺さぶられる。一方で、その「声」は多くの謎にも満ちていた。原爆が投下され、数十年経ってもなお、消えることのない戦争の記憶に翻弄されたふたりの男の数奇な出会いを描いた、事実に基づく物語である。
原爆投下、終戦から81年が経過し、戦争の記憶、「声」が失われつつある中、被爆者個人の傷、そして広島・長崎という土地に刻まれた傷を記録し、後世へと残す。この記録する行為それ自体によって象られている。
(橋岡直人)
柴田岳志監督 日本映画/102分
キネマ旬報シアター柏で 上映中


