松風 冬来
松戸市 会社員・56歳

昔々のその昔、この地球(ほし)に人間が現れる遥かまえ、この地球(ほし)が無垢(まっさら)だった白亜紀(はくあき)の頃。
天空(そら)はどこまでも青く、PM2・5が舞う代わりに、大きな比翼(つばさ)を広げたプテラノドンが、「ピーヒョロロ~ォ」と輪(わっか)を描いて飛んでいた。埋立工事のない「母なる海」では、桃色珊瑚が手を振って、アンモナイトがジェット水流で「スーイ、スイ」と泳いでた。一見長閑なようでいて、実はそうでもない。自然界はいつの時代も弱肉強食の真剣(ガチ)世界。ヤワな者は生き残れない。そんな厳しいサバイバルレースの草原に、史上最強の恐竜・ティラノサウルスが棲んでいた。我が物顔で。
大人は誰でも大人になる前は子どもであったし、子どもは子どもになる前は赤ちゃんだった。だから、ティラノサウルスも史上最強になるずっと前は、達磨(だるま)のように何者(ナニモノ)にも手足の出せぬ卵であった。
ティラノサウルスの卵は、地面を掘った巣の中で植物に覆われていた。親はその巨体から、卵も鳥のように抱いて温めることができなかった――が、大丈夫。白亜紀の平均気温は21世紀より15℃も高い30℃。超温暖な世界。だから卵は太陽熱だけでも十分に温まり、孵化することができたのじゃ。
――と、そんなところに、「おやおや、あんなトコロに美味し(おいし)そうな卵があるゾ」卵泥棒のラプドルがやって来た。「今日のディナーは目玉焼きにしようかな?それともオムレツにしようかな?」
ラプトルは舌なめずりして、捕らぬ卵の皮算用。まだ見ぬディナーを妄想し、抜き足差し足忍び足。「ソロ~リ、ソロリ」と卵に近づいてゆく。そして卵まであと少しのトコロで、「ガォーッ!」
突然、鼓膜が破れんほどのほえる声が!「ビビビッ」と大地も震える。卵泥棒を見つけたティラノサウルスが大きな口を開けて、鰹節みたいな牙を鋭く光らせたのだ。ギンギラギン。「ガォーッ!」「ひえ~っ!」
ラプトルは三十六計逃げるにしかずで「スタコラサッサ」と逃げ出した。「ガォーッ!」ラプトルを追い払ったティラノサウルスの「勝利の雄叫(おたけ)び」が、草原に響き渡った。
――太陽ジリジリ、ポカポカ陽気のある日。
ピキピキと卵の硬い殻を破って、チビ・ティラノが誕生した。体長は75㎝ほど。「ピーピーピィ」とまだまだ大人みたいに強くないけれど、大人たちに守られながら、きっと史上最強の恐竜になっていくに違いないネ。
童話作家 緒島英二より
魔法を使わずに、孫娘への贈り物を作るおばあちゃんの、一所懸命な顔が目に浮かんできます。そこには、心と心の繋がりや温もりがあるのですね。ラストの素敵なシーンが、ずっと心に残ります。

