(オリジナル童話)ハイ! ポーズ

柳楽 美智子(松戸市 介護福祉士・66歳)

私の名前は、渡辺ごはん。
 草村で鳴いている私を、みんな私を見ないで足速に去っていく。そんな中、「お腹空いているのネ」と母さんが抱きかかえて、お家に連れて行ってくれた。渡辺家の一員と迎えてくれた。「ごはん」の由来は、朝食が済むと外に飛び出し、「ごはんですよ」の母さんの声に、どこからともなく現れるからと母さんが教えてくれた。
 ある日、洗濯物をたたんでいる母さんの横でテレビを見ていた。招き猫特集番組に釘付けになっていた私。
 (ちょっとおもしろそう)と、右手を上げ、招き猫ポーズをとってみた。
 母さんが「あらっ、いいねェ」と私を姿見の前に連れて行き、「ハイ! ポーズ」の母さんの声に、(こんな感じかな?)とポーズをとった私。(あら、似合う、いい感じ)と、手を下げてはまた上げてと何度も練習した。
 翌朝、いつものように父さん、姉さんに行ってらっしゃい! と門の上に飛び乗り座って手を振った。(ちょっとやってみようかな)と招き猫ポーズをとって、じっとしていた。しばらくすると、通りがかりの人に「あら、可愛いね」と頭をなでられた。
 次の日も次の日も、同じ時間にポーズをとるようになり、道行く人と仲良しになった。
 たまに抱かれると、「やめてくれェ~」と鳴くのだけれど、喜んでいると勘違いされなかなか離してくれない。そんな時は、「とってもイヤだったんだよ」と母さんに不満をもらす。
 お庭で、お花の手入れをしている母さんのそばに行くと、「この花はねェ」と名前を教えてくれる。チョウチョが飛び回っていると、ちょっかいを出す私。「こらぁ」と叱られる。それでも仲良し。ポーズをとっている私の耳に、止まりじっとしていたら、「あら、リボン付けてるみたいね。」と道行く人に言われるとすまし顔になる私。
 ある日、チューリップの中をのぞいて見たくて、下を向いた瞬間、「痛っ」。中から、ブーンブーンと飛び出してきた。「おばかさんね」と、母さんが真っ赤に腫れあがった鼻に、バンソウコウを貼ってくれた。
 翌朝、バンソウコウ顔でポーズをとっていたら、「ホッホッホッ、バンソウコウネコちゃん可愛いね」と写真を撮っていく人。
 「ごはんちゃん、どうしたの?」と心配してくれる近所の人。みんなみんな、私を見て通っていく。
   痛かったけど、バンソウコウの私もいいものだと、しばらくポーズをとっていた。その夜、「もう大丈夫」とバンソウコウをはずしてもらいぐっすり眠った。
 今日も、父さん、姉さんと一緒に「行ってきま~す」と。
 私の仕事は、門の上で、「ハイ! ポーズ」

童話作家 緒島英二さんより
 ごはんちゃんが巡り合った、明るく楽しい毎日の様子が、目の前に浮かんできて、読む人の心を温めてくれる作品ですね。登場人物の描写も巧みで、物語の展開を楽しめました。

タイトルとURLをコピーしました