私の専門は大相撲だが、「ベストナイン」と「ゴールデングラブ賞」の選考委員を務めるなど、プロ野球や大リーグも長く取材してきた。
日米の最大の違いが、音だ。ラッパと応援歌が鳴り響く日本のプロ野球に対し、大リーグでは鳴り物の応援がない。「MA KE SOME NOI SE」「GET LOUD」 (騒ごうぜ)といった文字が電光掲示板に映し出されると、指笛や歓声が沸き起こる。だが、投球動作に入った瞬間、静まりかえる。座席によっては球が空気を切り裂く音まで聞こえる。
投手がセットポジションに入る。プレートを外す。選手の間で激しく明滅する緊張と弛緩を観客が共有している。試合に集中しているので、ファウルボールを避けられる。バックネット裏を除き、大リーグの球場には金網がない。遮蔽物がないので、スタンドとグラウンドはさらに近づく。
応援団が旗を振り、ラッパで盛り上げる日本の応援も一つの文化だ。しかし、1球にかたずを飲む大リーグとは、趣が全く異なる。5万人の大歓声には迫力がある。だが、「5万人の沈黙」はケタ違いの迫力だ。
円安で渡航費用も切符代も大変ですが、「いつかドジャースタジアムへ」と夢を描いている方もいるでしょう。その時はぜひ、5万の沈黙を味わってください。
朝日新聞柏支局長 抜井規泰

