(オリジナル童話)雲のおにぎり屋さん

関口 麻里子 柏市
主婦・58歳

 かずやさんは、町でおにぎり屋を開いていました。お客さんは、毎日、たくさん来てくれます。かずやさんは、夢中で働きました。
 ある朝、かずやさんが店の二階の住まいで目を覚ますと、いつもの部屋ではありません。かずやさんが、体のまわりを見ると、大きな大きなふわっふわっのクッションのようなものにねていました。
「ここはどこで、これはなんだろう」
「ここは空の上、雲の上でねているのよ」気付いたら、かずやさんの横には、十年前に亡くなった妻のあすかさんがいました。 
「お父さんは、病院ぎらいだから、痛い思いしないで来させてくださいって、天の神様にお願いしてたのよ」
「そうか……、ありがとう、お母さん」
 かずやさんは、この頃、体の具合が悪かったのですが、(年のせいだ、ねたら治るさ)と、自分に言いきかせていました。「子どもたちは、店のカギを持っているし、毎日、おにぎりを食べに来る。あとは大丈夫さ」
「そうね。それで、相談なんだけど」
「うん、なんだろう」
「天の神様に、少しの間お願いされたのだけど、生まれ変わる人たちに、一番好きだった食べ物を入れて、お父さんに、おにぎりをにぎってもらいたいの。そのおにぎりを食べてから、別の人間に生まれ変わるのよ」
「もちろんいいよ。がんばってにぎるよ」
 かずやさんの横には、いつの間にか、一つずつパックされた食べ物と、大きなお鍋には、ふかふかの雲がたくさん入っていました。さっそく、かずやさんは、雲のおにぎりをにぎりはじめました。おにぎりと言っても、普通の具では、ほとんどありません。ショートケーキやシャインマスカットやピザもあります。生まれ変わる前の最後の食事です。(この食べ物をにぎるには、大きめの俵型にしようかなあ)かずやさんは、一つ一つを心をこめて、にぎっていきました。にぎった雲のおにぎりが、置いてあるトレイがいっぱいになると、あすかさんは、トレイを生まれ変わる人たちの所へ運んで行きます。食材がなくなると、かずやさんとあすかさんは休みます。
 「お店をしていたから、お父さんともっと旅行がしたかったけど、こうして空から地上を見られて、思い残す事はないわ。もう、私がいなくても大丈夫ね。順番だから、もう少ししたら、お先に行くから」
「わかっているよ。今までありがとう。だけど、あすかの一番好きな食べ物ってなんだろう。いざとなったら、言えないなあ」「楽しみにしていて、私こそありがとう」
 かずやさんは、深くうなずきました。

童話作家 緒島英二さんより 
 雲のおにぎりは、人と人とが手を握り合い、心を繋げていく力となっていくのですね。お互いを大切にし合う姿こそ、日々の生活を光り輝かせていくのでしょう。かずやさんとあすかさんのように。


タイトルとURLをコピーしました