千倉 じゅん子 (柏市 パート・49歳)

小学五年生のあすかは持病があるため、定期的に病院に通っています。いつもはママが通院に付き添いますが、今日はどうしても仕事が休めず、代わりにママの妹の美紀おばさんが付き添ってくれることになりました。苦手な採血が終わったあと、待合室に戻ると美紀が言いました。
「病院の帰りは、いつもカフェに寄ってスイーツを食べるってママから聞いたよ」
「うん」
「今日はカフェのあとにもう一軒、あすかちゃんを連れて行きたいところがあるの」「どこにいくの?」
「とても素敵な場所よ。お楽しみに」美紀はウィンクしました。
検査の結果は特に異常はなく、主治医の横山先生は
「この調子で無理しないようにね」と笑顔で言いました。
最近は入院することも減りましたが、体調が悪くて学校を休んで自分の部屋のベッドで寝ている時は、なんだか取り残された気持ちになります。
病院と薬局の後、あすかと美紀はカフェでおいしいパンケーキを食べました。それから、美紀は二番街商店街の近くにある手芸屋さんにあすかを連れていきました。
「うわー、すごい! きれい!」
色とりどりの生地、リボン、ビーズなど、素敵なものがたくさんあり、目移りします。
「ペンケースを作るから、好きな生地を選んでね」
あすかは迷った挙句、大好きなアニメの魔法少女ルナがプリントされた生地を選び、生地に合う色のファスナーも選びました。
あすかの家で、美紀は自分の鞄から手芸道具を取り出すと、生地を同じサイズで二枚カットしました。
「この生地を接着芯で補強してから、布用の両面テープでファスナーと貼り合わせていくのよ。最初は私がやってみせるから、途中からあすかちゃんがやってみてね」
「うん」
「はい、次はあすかちゃんの番ね」
あすかも美紀と同じように慎重に生地とファスナーをテープで貼り合わせていきます。
「できた!」魔法少女ルナのペンケースが完成しました。
「上出来!」美紀は拍手しました。
「魔法ではないけどね。手仕事には自分を助ける力があると私は思うのよ」
「自分を助ける? どうして?」
「無心で作業するのが良いのかも。悩みがあっても、作業している間は色々考えずにすむでしょう。あすかちゃんは、どうだった?」
「うん、楽しかった」
「良かった! 明日、学校にもっていく?」
「うん! 友だちに見せるね」
ペンケースのルナも嬉しそうに笑ったように見えました。
童話作家 緒島英二さんより
病気で少し暗くなりがちなあすかでした。そんな中、おばがあすかに手仕事をする力を手渡し、あすかは明日への希望の道を開いたのですね。自分を助ける力を持つ大切さが、よく伝わってきます。