
将棋の藤井聡太竜王・名人(21)が、柏市で開かれた第8期叡王戦記念イベント(三井不動産主催)に出席し、世界で初めて現役棋士を破った将棋AI(人工知能)の開発者、山本一成さん(37)と「AIが人生に与えた影響」をテーマに対談した。親子将棋教室にも飛び入りで顔を出し、子どもたちを喜ばせた。
柏で叡王戦記念イベント
第8期叡王戦五番勝負は藤井叡王が3勝1敗で3連覇を果たした。2勝2敗になった場合はイベントが開催された6月17日に、同市の柏の葉カンファレンスセンターで最終第5局が行われるはずだった。
将棋コンピューターソフトは2010年代に入って劇的に進化した。東大将棋部出身の山本さんが開発した将棋AIソフト「PONANZA(ポナンザ)」は13年、ソフトと棋士との対抗戦「電王戦」で勝利。17年の電王戦では当時名人の佐藤天彦九段を破り、棋界に衝撃を与えた。
形勢判断に効果
藤井さんは7年前からAI研究を導入。ある局面の指し手を数値で評価してくれるので、「形勢判断の力を大きく伸ばすことができた」と話す。愛知県在住のため、ほかの棋士と練習将棋を指す機会が少ないこともあり、「ふだんはAIを活用して勉強するのがメインになっている」とも。
将棋界におけるAI効果について、山本さんは「野球みたいにスコアがわかるようになった」と語り、自分では将棋を指さない「観る将棋ファン」などが増えたことを喜ぶ。
温故知新も大事
藤井さんが、AIよりも早く発見した最善手で勝負を決めることがある。「AI超え」といわれる藤井さんの「先を読む力」に、日本を代表するプログラマーの山本さんも脱帽。「単純に藤井さんが強いということです」とたたえた。
藤井さんは「AIが強くなったことで従来の戦法が大きく変わっている」とし、こう続けた。「廃れていた形が再評価されることもあり、そういったところにも新しい発見があるのかなと思いました。AIに近づけるだけでなく、ほかのところからも学んで自分の将棋を面白くしていければ」
山本さんは現在、柏の葉を拠点とする「Turing(チューリング)」のCEO(最高経営責任者)として、AIによる完全自動運転EV(電気自動車)の量産をめざしている。藤井さんは「免許をもっていないので、自動運転の実現を心待ちにしています」と期待を寄せた。
藤井さんは対談後、柏の葉小学校の児童と保護者を対象にした親子将棋教室にサプライズで登場。「将棋の楽しさ、面白さを知ってください」と、未来の棋士たちに呼びかけた。
小学2年生の眞梶陽翔さんは「会えてうれしかった。将棋を覚えたいと思いました」。付き添いで埼玉県さいたま市から来た祖父の興治良一さん(79)は「孫と将棋ができたら楽しいでしょうね」と話した。