村松 たか子 柏市
団体職員・49歳

たくみさんが学校からかえってきた。
「レイ、さんぽに行くよ」私のご主人は、時間があるとお琴をひいてみたりお茶をたててみたり、まるでやまとなでしこのような人。でも本人はふつうの男子小学生。四つ年上でいばりんぼうのお兄ちゃんにいつまでも赤ちゃんあつかいされるのがイヤで、弟か妹がほしいとお父さんに何度もお願いして、それで私がこのうちに来たというわけ。
その時からレイとよばれているけど、たまに「昔ながらのムクムクしばちゃん」なんて長ったらしい名前でよばれることもある。
たくみさんがお兄ちゃんと公園にキャッチボールに行くときは、私もおともをする。ボールが遠くにとんでいってしまうときには、代わりに私が取りに行こうとするのだけど、しっかりリードでつながれているから、そこまで行けないのがなんともくやしい。
そんなとき、公園に黒い犬が通りかかった。あらゆるしば犬が大好きなたくみさんは「わぁ『スタイリッシュ黒しばちゃん』だ!」とキャッチボールをしながらずっと見つめていた。そのせいでボールを取りそこなって、また遠くにいってしまったのだけど、私のおなかの中にはいつもとちがうモヤモヤができた。
さいきんよく見かけるようになった、しば犬のわりに手足が長くてカッコいい子たち。「どんなお手入れしているの?」と聞いてみたくなる毛ヅヤ。うらやましくないと言えばウソになる。あぁなんだかなぁ~。その日のばんごはんは、ドッグフードを5つぶ残した。「どしたの? 食べないの?」とたずねるたくみさんには、だまってしっぽを向けておいた。
次の日、さんぽに出かけると、また、あの「スタイリッシュ黒しばさん」とすれちがった。ニコニコながめているたくみさんに腹が立ったので、歩くのをストップ! みんなから「キョヒしば」と呼ばれるストライキをしてみた。
その夜、おなかはすいていたけど、ごはんを食べずにすみっこでまるくなっていたら、また、たくみさんがそばにやってきた。「どんなにカッコイイしばちゃんがいたとしても、レイはとくべつ。レイはやりたいようにしていいんだよ」私のぼさぼさしたせなかをなでながら、そう話してくれた。「え、やりたいようにしていいの?」私はまよわずリードをくわえて玄関にダッシュした。「レイ、おさんぽ行きたいみたいだね。つれてってあげて~」お母さんに言われたたくみさんは「さっき行ってきたばっかりなんだけどなぁ……」と言いながら、野球チームのぼうしをかぶって玄関に出てきた。こんどあの黒しばちゃんにまた会えたら、毛ヅヤのひけつを教えてもらおうっと!
童話作家 緒島英二より
ドッグフードを5つぶ残したレイの気持ちが、胸に迫ってきます。たくみさんが託してくれた「レイはとくべつ」という言葉に力付けられ、次の一歩を踏み出しましたね。



