きのくに なつみ (流山市・ヨガインストラクター・49歳)

「風、あったかーい」
春風が、ミオのほっぺたをやさしく、なでていきました。三月の日ようびです。ミオは、車どおりのない道路で、なわとびのれんしゅうをしていました。うすもも色のおきにいりの、なわとびです。ぴょんぴょん、とんでいると声がしました。
「なわとび、かわいい色!」ミオがふりむくと、見たことのない女の子が、たっていました。「あなた、どこの子?」女の子は、みよしスーパーを、ゆびさし、くふふっと、わらいました。「あのへんの子」「名前は?」女の子は、ピンク色のスカートを、ちょっとつまんで、ひざをまげて、おじぎしました。「サクラ」ミオは、そのおじぎが、気に入りました。茶色いズボンをつまんで、あいさつしました。「わたし、ミオ」「そのなわとび、すっごく、いい色」サクラは、ミオのなわとびをみつめています。「とんでみたい?」「うーん。とんでみたいわけじゃ……ないの」サクラは、かたをすくめました。「とぶいがいに、どうしたいの?」サクラは、なわとびで、じめんに、なにかのかたちをつくりました。ぴょこんと、つきでたふたつのみみに、コロンとまるい、ちいさなしっぽ。
「ウサギ!」ミオは、すっかりうれしくなって、そばにおちていた小石で目とはなをつけました。「このウサギ、まほうが、かかってるの」サクラが、目をきらきらさせて、ミオのほうに顔を近づけてきました。「どんな、まほう?」「こんな、まほう」サクラは、りょうてをこすり、息をふきかけると、ウサギの耳に、ふわっと、あてました。すると、じめんから、赤いゼリーみたいな目の、うすももいろのウサギがひょっと、あらわれたのです。「すごい、まほう!」ウサギは、小さなはなを、ひくっとさせました。「あっ!」ウサギはふりむくと、うしろあしで、じめんをけって、はしりだしたのです。「おいかけよう!」ふたりは、ウサギを、おいかけました。「こっち!」走っていくと、そこはみよしスーパーの入り口でした。大きな、さくらの木がたっています。
「サクラちゃん?」ふりむくと、サクラは、いません。でも、まんかいのさくらに、そっくりな色のミオのなわとびが、ぶらさがっていました。
「サクラちゃん。ほんとに、いい色ね」
ミオは、なわとびをもって、ほんのりあいらしい、さくらの色に、みとれていました。
童話作家 緒島英二さんより
メルヘンチックな世界の中、芽生えたふたりの小さな友情が、とても心地よく伝わってきます。サクラちゃんの魔法は、ミオちゃんだけでなく、誰の胸をも温めてくれることでしょう。