(キーボード)ブレーキとアクセル

 高齢者の車が病院の玄関に突っ込んだ――。4月10日昼、デスクから連絡を受け船橋市の現場に駆け付けた。車がガラス製の玄関ドアを突き破り、建物奥で止まっていた。ブレーキ痕のない状況をカメラに収めようとシャッターを切り続けた。
 私は、高齢者事故の取材が初めて。目の当たりにすると、一体どうしてこんなことになったのかと不安にかられた。運転手は80代で、県警に「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と話した。
 秋田で2015年、陸軍兵だった90代男性に戦争体験を取材した。乗っていた船が南方で米潜水艦に攻撃された様子をつぶさに語った。そして、車を運転して図書館に通い、戦争の資料を読み込んでいるとも話した。自身の過去を客観視しようとする姿に頭が下がった。
 各地で高齢者の事故が起き免許証返納が話題になっている。事故を防ぐにはどうしたらよいか。
 記者になった時から、事件や事故が起き、社会の課題が浮上した時、「家族が当事者だったら、どう考えるか」と意識してきた。身近な高齢者がハンドルを握る時、自分はどう行動するだろうか。事故現場を思い出しながら、地域のみなさんとともに、ルールや仕組みを考えたい。

朝日新聞柏支局長 斎藤茂洋

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