(キーボード)貫太郎の教え

 県内各地で最高気温が35度を超えた8月末、終戦時の首相だった鈴木貫太郎(1868~194 8)の孫、鈴木道子氏(93) による講演会が野田市で開かれた。噴き出す汗が止まらない中、どれほどの人が来られるのかと思ったが、市内外から約7 00人が元首相ゆかりの地に集まった。杖をつきながら会場を目指す高齢者の姿もあった。
 「この中に、貫太郎に会ったことのある人、いますか」。冒頭で道子氏が問うと、来場者2人が手を挙げた。会場に静かなどよめきが広がった。
 元首相は、今の同市関宿町で育ち、首相退任後に戻り晩年を過ごした。講演会は関宿にある元首相の記念館=台風被害で休館=の再建機運を盛り上げようと開催された。
 道子氏は昨春出版の手記の内容を軸に「おじいちゃまから『 次の時代 』に備え疎開を」と説得された逸話などを語った。手記と違う口語調の講演に、みんな聴き入った。
 腰かけることなく約50分間、静かに語りかける道子氏、耳を傾ける来場 者。元首相の経験や息づかいを共有して「戦争を二度と起こしてはならない」という、道子氏と来場者双方の思いを肌で感じた。来られなかった人に伝わったらうれしいと思い、講演内容を9月2日の記事にした。

朝日新聞柏支局長 斎藤茂洋

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